日本に行って感心するのは、なんといってもサービス業のきめ細かなサービスです。日本には「お客様は神様です」という言葉がありますが、なるほど日本で顧客という立場にいると、自分がサービス提供者より上の立場にいると感じさせられます。高級店でもない普通の店に行っても、アルバイトの店員でさえも、顧客に対してこれほど丁寧なサービスする国はおそらく他にないのではないでしょうか。
ショッピングに行くと、どんなに些細な質問をしても店員が丁寧に答えてくれます。商品を手提げビニール袋に入れてくれたときは、渡すときに手提げ部分をわざわざクルクル丸めて持ちやすいようにしてくれます。デパートやショッピングセンターで商品を買うとりっぱな手提げ付き紙袋に入れてくれて、さらに上の部分が開かないようにわざわざテープで留めてくれます。家に帰って袋を開けようとすると、テープの端が少し折り返してあって、爪でカリカリ引っ掻かなくてもすぐにテープをはがせるようになっているのです。天気の悪い日にショッピングセンターへ行ったときは、商品を入れた紙袋が濡れないように、わざわざ上からビニールシートを掛けてくれました。外に出てみると雨は降っていません。でも窓がないビル内で働く人はそんなことはわかりません。朝の天気予報を見てビニールシートサービスをするかどうか決めているのかもしれません。こんなサービスはやめても大したことはないと思うんですが、やめるとお客が来なくなるんでしょうか?小売業がコスト削減の大きなプレッシャーを受けている今でもなお、包装に多大なコストをかけること、そしてエネルギー問題がクローズアップされている今でも、いずれはゴミになる過剰な包装が多くの人に受け入れられていることを不思議に思いました。
服を買いに行くと、一人の店員が私に張り付いて、最初から最後までつきっきりで面倒を見てくれました。いろんな服やサイズを試着すると、着ているところを毎回見てくれます。こんな服を探していると言うと見つくろって持ってきてくれたり、この服はどんな服に合わせたらいいかというアドバイスをくれたり、まるで女王様のように扱ってくれました。自分で服を探して勝手に試着して自分で決めることに慣れてしまった今、高級な服を買っているわけでもなく、上得意客でもない海外に住む一元さんの私のためだけに、こんなに多くの時間を割いてくれていいんだろうか?私にかかった人件費はいったいどこから出ているのだろう?などと考えてしまいました。
日本滞在中に郵便局から書留郵便が届いたんですが、外出中だったので不在通知が入っていました。夕方に電話してみると、夜7時までに再配達希望を出せば、その日の9時までに再配達してくれるというのです。私も日本に住んでいるときは当たり前だと思っていたんですが、考えてみたらこれはすごいことです。夜7時になってようやくその日の配達予定が決まり、そこから配達人の割り当てや配達ルートの計画をするんですから。つまり終了時間が迫ってきても、不測の事態に臨機応変に対応しなければならないということ。7時に電話が来て「その日の配達はできません」と言う選択肢がないということは、人が足らなかろうが配達計画が詰まっていようが、どんなに無理してでもやらなくちゃいけないんですから。結局書留はその日の夜9時までに届けてもらい、そのすばやさには感動しました。でもこれを実現するために現場の人がどれだけの苦労をしているんだろう?と考えると、後ろめたい気持ちになりました。だってその郵便物はその日のうちに必要というわけではなかったので、わざわざ夜の時間に働いてもらう必要はなかったし、特急サービスのために追加費用を払ったわけでもなかったんですから。無理をいう客もそうでない客も同じように扱うのなら客としては当然無理を言うし、無理を言っていることすら気付きません。
日本のサービス業の独特なところは、リターン(利益)とは関係なくコストをかけることだと思います。コストとは主に労働力のことです。「このお客はお金をたくさん落としてくれる、またはその見込みがあるから特別サービスをする」のではなく、どんな客に対しても一様のサービスをするのです。そして高級店・高級サービスのようにそのコストを顧客に上乗せできない状況では、しわ寄せは労働者に来ます。その分ちゃんと余分な賃金を払ってもらっていて、かつそのサービスを提供するためにかかる長時間労働に労働者が納得していればいいのですが、果たしてそうなのでしょうか?特別な客でなくても一定レベルのサービスを受けることに慣れてしまった日本人客を相手に、今までやっていたサービスをやめたり質を落とすのは大変なこと。顧客が望むならそれを提供者が提供するのは当然のことですから。誰でも質のいいサービスを受けられるのはすばらしいことです。でもそのサービスを受ける日本の消費者は、同時に労働者でもあるのです。
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